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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)134号 判決 1992年11月17日

東京都港区芝浦四丁目一七番八-一〇〇二号

原告

中村ヨリ子

東京都港区芝五丁目八番一号

被告

芝税務署長 菊地衛

右指定代理人

佐藤鉄雄

時田敏彦

内倉裕二

堀越英司

渡辺進

赤間覚

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成三年一月三一日付けでした原告の昭和六二年分の所得税の過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  被告がした原告の昭和六二年分所得税の延滞税の賦課のうち、平成元年五月二日から平成二年五月一日までの期間に係る部分を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告の昭和六二年分所得税(以下「本件所得税」という。)につき、原告のした確定申告及び修正申告(以下「本件修正申告」という。)、被告のした更正及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)の経緯は、別表の順号<1>ないし<4>に記載のとおりである。

(二)  被告は、本件修正申告により納付すべき税額につき、平成元年五月二日から平成三年一月七日までの期間から平成二年五月二日から同年一二月一九日までの期間を控除した期間の日数に応じて計算した額の延滞税(以下「本件延滞税」という。)を賦課し、平成三年一月三一日付けでその納付を督促した。

2  原告が本件賦課決定及び右督促に対してした不服申立て並びにこれに対する応答の経緯は、別表の順号<5>ないし<8>に記載のとおりである(以下、別表順号<8>の裁決を「本件裁決」という。)。

3(一)  本件修正申告の経緯

(1) 原告は、昭和六二年九月一七日横浜市保土ヶ谷区東川島町八四番地一五所在の建物(マンションの五階部分、床面積三五・三一平方メートル)を譲渡する一方、同年中に栃木県矢板市大槻字竜ヶ峯二三一八番地三一四C七一八所在の山林他一筆の土地(面積合計八五八平方メートル、以下「甲買換資産」という。)を取得した。そこで、原告は、右買換資産及び昭和六三年中に甲買換資産の上に取得する見込みである建物(以下「乙買換資産」という。)に係る譲渡所得に対する課税については租税特別措置法三七条一項が適用される(乙買換資産については同項が同条四項により準用される。)として、本件所得税について、確定申告書に同条一項の適用を受けようとする旨の記載をし、右1(一)のとおり確定申告をした。

(2) しかし、原告は、甲買換資産の取得をした日から一年以内にこれを原告の事業の用に供せず、また、昭和六三年中に乙買換資産を取得しなかったため、平成二年一二月一九日右1(一)のとおり本件修正申告をし、平成三年一月七日これにより納付すべき税額を納付した。

(二)  本件賦課決定及び本件延滞税賦課の違法

(1) 被告は、原告が、甲買換資産に関しては、その取得をした日から一年以内にこれを原告の事業の用に供せず、乙買換資産に関しては、昭和六三年中にこれを取得しなかったとして、租税特別措置法三七条の二第一項、二項二号により、かかる事情が生じた日から四月以内である平成元年四月三〇日までに、それぞれ本件所得税についての修正申告書を提出し、かつ、右期限内にその申告書の提出により納付すべき税額を納付しなければならないこととなったにもかかわらず、これをしなかったとして本件賦課決定をし、また、本件延滞税を賦課したものである。

(2) しかしながら、本件修正申告については、以下のとおり、同法三七条の二第四項、三三条の五第三項二号によって準用される国税通則法六五条四項の「正当な理由」があったから、本件賦課決定は違法である。

ア 原告は、新聞記事に基づいて、租税特別措置法三七条一項、四項、三七条の二第一項、二項の定める買換資産を取得し、又これを事業の用に供すべき期限は譲渡資産の譲渡の日から五年以内であると信じていた。

イ 原告は、甲買換資産の上に乙買換資産を建築して老人ホームに類似した事業を営むべく準備を進めていたが、希望した建築資材の到着が業者側の都合により遅延したため、所定の期限内に乙買換資産の取得ができなかったものであるから、このことについては原告は責任がない。

ウ 被告は、修正申告及び納付をすべき期限の経過した後である平成元年六月に、原告に対し葉書により買換資産に関する照会をした。そのため、原告は、同月二二日これに応じて芝税務署に出頭し、乙買換資産の建築設計を請け負った設計事務所の作成に係る建築遅延の事情を記載した書面を提出したところ、被告所部職員は「分かりました」と答えて、これを受け取るにとどまり、修正申告書の提出を慫慂しなかった。

しかして、原告は、法律の知識の乏しい者であるから、被告は、かかる原告に対しては法令の定める期限までに修正申告をすることができるよう指導、説明をすべきであり、少なくとも、原告が右書面を提出した際には、買換資産を取得し、又はこれを事業の用に供すべき期限に関する法制を説明し、本件所得税については修正申告が必要であることを告げて、これを求めるべきであり、原告としては、そのような措置がとられれば、これに応ずる意向であった。しかるに、被告は、かかる措置をとることを怠り、その結果原告は、前記の期限までに修正申告を行い得なかったものである。

(3) 原告は、右(2)ウのとおり、所定の期限が経過するまでに修正申告の慫慂を受け、又はこれが必要である旨の説明を受けておれば、これに応じて修正申告書を提出し、それにより納付すべき税額を納付し得たのであるから、本件延滞税のうち、その賦課される期間中原告が現に修正申告書提出の慫慂を受けるまでの期間、すなわち平成元年五月二日から平成二年五月一日までの期間に係る部分は、原告がこれを賦課されるいわれはなく、被告がこれを賦課したことは違法である。

4  よって、原告は、本件賦課決定と本件延滞税の賦課のうち平成元年五月二日から平成二年五月一日までの期間に係る部分との各取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

行政事件訴訟法一四条一項、四項によれば、処分の取消訴訟は、処分についての審査請求に対する裁決があったことを知った日から三か月以内に提起しなければならないものとされ、この場合、右の裁決があったことを知った日は右期間に算入されるものと解されるところ、本件裁決書謄本は平成四年四月二〇日原告に送達され、原告は、これによって右裁決があったことを知ったものであり、初日である同日を算入した三か月の期間の末日である同年七月一九日は休日であるから、民事訴訟法一五六条二項により、右出訴期間は、その翌日の同月二〇日の経過をもって満了したこととなる。したがって、同月二一日に提起された本件訴えは、いずれも、出訴期間を徒過した不適法なものである。

三  被告の本案前の主張に対する原告の反論

本件訴えは、以下のとおり、民事訴訟法一五九条一項の「当事者カ其ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リ不変期間ヲ遵守スルコト能ハサリシ場合ニ於テ其ノ事由ノ止ミタル後一週間内ニ」提起されたものであるから、適法である。

1  原告は、平成四年四月に高齢の母を引き取ってその面倒を看るようになったため、そのころ多忙を極めていた。

2  原告は、訴えの提起については、出訴期間内に訴状を投函すれば、これを徒過したこととはならないと信じて、出訴期間内である同年七月一八日に本件訴状を投函した。

四  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2(一)  同3(一)(本件修正申告の経緯)(1)及び(2)の各事実は認める。

(二)(1)  同(二)(本件賦課決定及び本件延滞税賦課の違法)(1)の事実は認める。

(2) 同(2)柱書の主張は争う。同ア及びイの各事実は知らない。同ウの事実中、平成元年六月に原告に対し書面を送付したこと、原告が同月二二日芝税務署に出頭し書面を被告に提出したこと、原告が本件修正申告をしたことは認め、その余は否認する。

(3) 同(3)は争う。

3  同4は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件賦課決定の取消しを求める訴えの適否について

1  本件賦課決定は、国税通則法七五条一項一号の処分に当たり、同条三項に基づいて審査請求をすることができるから、その取消しを求める訴えは、行政事件訴訟法一四条一項、四項により、本件裁決があったことを知った日から三か月以内に提起しなければならず、その期間の計算については、右裁決があったことを知った日が期間に算入されるものと解される。

しかして、成立に争いのない乙第二号証の郵便物配達証明書謄本によれば、本件裁決の裁決書謄本は、郵便により、平成四年四月二〇日に原告方に配達され、原告に適式に送達されたこと(国税通則法一二条一項)が認められ、この事実によれば、原告は、同日本件裁決があったことを知ったものというべきであって、そうすると、右のとおり計算された同日から三か月の期間の末日は同年七月一九日となるところ、同日は日曜日であって一般の休日に当たるから(当裁判所に顕著である。)、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法一五六条二項により、右期間は、その翌日をもって満了することとなるから、本件賦課決定の取消しを求める訴えを提起することのできる期間は同月二〇日までとなる。

しかるに、本件賦課決定の取消しを求める訴えが同月二一日に提起されたことは本件記録上明らかであるから、右訴えは、右期間を経過した後に提起されたこととなる。

2  ところで、行政事件訴訟法一四条一項の期間は不変期間とされているから(同条二項)、同法七条、民事訴訟法一五九条一項により、「当事者カ其ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リ不変期間ヲ遵守スルコト能ハサリシ場合」においては、「其ノ事由ノ止ミタル後一週間内ニ」提起された訴えは、所定の期間を経過した後に提起されたものといえども適法とされることとなる。そして、右にいう「其ノ責ニ帰スヘカラサル事由」とは、一般的に通常期待される程度の注意義務をもってしては避けることのできなかったと認められる事由をいうものと解される。

そこで、本件賦課決定の取消しを求める訴えの提起について、かかる事由が存在するかどうかをみるに、原告は、まず、高齢の母の面倒を看るために多忙を極めていた旨の主張をするが、そのような事柄は、これによって行政事件訴訟法一四条一項の期間の徒過が不可避となるようなものでないことは明らかであるから、原告の責めに帰すべからざる事由には当たらない。また、原告は、訴えの提起については所定の期間内に訴状を投函すれば、これを徒過したこととはならないと信じて、右期間内に本件訴状を投函した旨の主張をするが、これも、極めて薄弱な根拠のみによって、出訴期間に関する法令の規定を誤解したものというべきところ、法律実務を専門としない者であっても、訴えを提起しようとする以上は、関係法令を調査するなどして、訴えの提起は訴状を裁判所に提出してしなければならず、その提出の時、すなわち、これを郵便によってするときは訴状が裁判所に到達した時が訴え提起の時とされるという程度の訴訟法制に関する知識を持つことはこれを要求されてしかるべきであるから、右主張の事由も原告の責めに帰すべからざる事由に当たらない。

ほかに、本件賦課決定の取消しを求める訴えの提起について、右「其ノ責ニ帰スヘカラサル事由」に当たる事実の主張はない。

したがって、本件賦課決定の取消しを求める訴えは不適法である。

三  本件延滞税の賦課の取消しを求める訴えの適否について

右訴えは、本件延滞税の賦課のうち平成元年五月二日から平成二年五月一日までの期間に係る部分の取消しを求めるというものである。

しかしながら、国税通則法によれば、納税者は、同法六〇条一項各号の一に該当するときは、その額の計算の基礎となる国税にあわせて延滞税を納付しなければならず(同条一項、三項)、その額は、右国税の法定納期限等の日の翌日からその国税を完納するまでの期間の日数に応じ、その未納の税額に所定の割合を乗じて計算した額とされている(同条二項)。そして、延滞税は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税とされている(同法一五条三項八号)。これらの規定によれば、延滞税の納税義務は、申告納税方式による国税の場合の納税者の申告並びに税務署長等の更正及び決定や、賦課課税方式による国税の場合の税務署長等の賦課決定のような行為を待つことなく、同法六〇条一項各号の要件が充足されることによって当然に成立し、それと同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものと解される。そうであるとすれば、延滞税の課税については、抗告訴訟の対象となり得る税務署長等の行為は法律上存在しないこととなる(その納税義務の存否又は範囲につき不服のある納税者は、納税義務不存在確認を求める訴えや過誤納金返還を求める訴えによってこれを争うべきこととなる。)。

そうるすと、本件延滞税の賦課の取消しを求める訴えは、取消しを求める対象を欠くから、不適法である。

三  結語

以上によれば、本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 喜多村勝徳 裁判官 長屋文裕)

別表 本件課税処分の経緯

<省略>

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